豆腐屋を待ちながら
ある時期から私の住む町では毎週水曜日の夕刻にラッパの音がして軽自動車の豆腐屋さんが来ている。時々は早く来てくれるが雨の降る日は少し遅くなることもある。
「トーフィー」と聞こえるラッパの音には不思議な郷愁がある。私がまだ幼かった時期に「納豆売り」など物売りは何かしらの音をさせていたように記憶している。「アサリ、しじみ」という声にも郷愁がある。「竹や、竿だけ」という声は小さな普請があった時代を示しているのだろうか、現代では廃品回収のいささか如何わしい雰囲気のトラックの代名詞になった。
遠くで軽自動車の鳴らしている音楽に身構えている自分がいる。何故かしら食糧難だった時代に戻っているようだ。
初めて豆腐屋さんが来た日は覚えていないがご近所の人と短い会話を交わした気がする。その後は私が遅れると玄関のチャイムを鳴らしてくれる。
母親を亡くしたばかりの少年が買いに来ていた。その少年は中学生になったが今でも駆けつけてくる。
様々な物語を織り成しながら地域での暮らしに彩りを添えている。
近隣にいくつもの大型店舗が出店する度に地域の古い店が姿を消してきた。「初めての買い物」に相応しい酒屋も早く時期になくなった。寿司屋、蕎麦屋などは栄枯盛衰がある。大型スーパーにもタクシーで行く時代が来た。